2013年11月7日木曜日

各種放射冷暖房方式の比較

放射冷暖房に関して、面白い論文をみつけました。
天井式、壁式、床式の各放射冷暖房についてのシミュレーションです。
お茶の水大学の卒業論文梗概で、元のPDFファイルはこちらからダウンロードできます。
PDFの中身が画像ファイルで文章を参照しづらいので、書き起こしてみました。

注目したのは以下の点です。
・パネル面積が大きいと、方式による差は小さい
・パネル面積が小さい場合は、外気に接する壁で、窓の下に設置するのが効果的
・天井式では、窓際の快適性がやや低下する
快適性についてのシミュレーションでは壁式に軍配が上がっていますが、この解析では窓のある壁の全面を放射パネルと想定しているので、壁の放射パネルが小さい場合にも天井式・床式に比べ優位性があるかどうかは、定かではないでしょう。


生活工学研究 第7巻 第1号 (2005)
各種放射冷暖房方式の比較
Comparison between various radiation cooling / heating systems
0130124 南 百合子 Yuriko MINAMI
指導教官 田中 辰明 Tatsuaki TANAKA
1、目的
 近年、室内温熱環境の快適性、省エネルギー性がよりいっそう重要視され、質の高い室内環境が求められている。これらの条件を満たす可能性のある冷暖房方式として、放射冷暖房が考えられる。この冷暖房方式は、10年以上前からドイツを中心にヨーロッパ諸国で急速に普及し、今日では主流となっている空調方式である。日本において件数はまだ少ないが、その良さが認められはじめ、着実に市民権を得ようとしている。
 放射冷暖房には天井式放射冷暖房、壁式放射冷暖房、床式放射冷暖房がある。これまで、従来空調との比較による放射冷暖房の熱的快適性や省エネルギー性については報告されている1) 2) が、各種方式の比較はみられない。そこで、本研究では、熱流体解析ソフトSTREAM for Windows v5 を用いて各種方式の放射冷暖房を行う室内を解析し、省エネルギー性を比較し、また、室内に人体モデルを配置して放射パネルと人体の位置関係による快適性の違いを調査することを目的とした。
2、各種放射冷暖房の比較
 熱流体解析ソフトSTREAM for Windows v5 を用いて、室内温度と気流の解析を行った。
2-1. 解析対象
 住宅の一室を想定する。窓のある面のみ外気に接する壁とした。各壁の仕様は表1参照。

図1 解析モデル
表1 各壁の仕様
2-2. 解析条件3)
 固定解析条件を表2に示す。
表2 固定解析条件
2-3. 解析ケース
 解析ケースを表3に示す。壁大、壁下小、壁上小は外気に接する壁、側壁は図1のXmin面、内壁はYmax面に放射パネルを設置した。
表3 解析ケース
2-4. 解析結果
 全てのケースで室内にほとんど温度むらがなく、気流も小さかった。各ケースの室内空気平均温度を図2、3に示す。
 冷房、暖房ともに壁式の効果が大きい。パネル面積が大きい場合、他の方式との差は小さいが、面積が小さい場合効果の差が大きい。また、壁式では外気に接する壁で、窓があれば窓の下に設置するとより効果的であることがわかった。

図2 冷房時室内空気平均温度

図3 暖房時室内空気平均温度
3、人体の位置による快適性の評価
 解析対象は図1、表1と同じものとし、天大、壁大、床大に人体モデルを置いて室内温度と気流の解析を行い、MRT(Mean Radiant Temperature:平均放射温度)、人体周辺の温度、流速からPMV(Predicted Mean Vote:予測平均温冷感)を算出した。
3-1. 解析ケース
 図4のように室内の3ヶ所(窓際から窓際、中央、奥)に人体モデルを配置した。固定解析条件は表2と同様に設定し、人体モデルの表面温度は32.0℃、放射率は0.95とした。

図4 人体モデル配置図

図5 人体モデル
3-2. PMV算出条件
 表4のようにPMV算出のための条件を設定し、ET_AEEを用いてPMVを算出した。流速は全ケースで0.1m/s 以下となったので0.1m/s と設定した。
表4 PMV算出のための条件
3-3. 結果
 図6に各ケースにおけるPMVを示す。

図6 放射パネルと人体の位置ごとのPMV
 -0.5<PMV<+0.5がPPD(Predicted Percentage of Dissatisfied:予測不満足者率、不満足な人の比率)10%以下の快適推奨域である。4) 床式冷房以外の全てのケースで快適推奨域に収まった。
 天井式では窓際で外皮からの暖気(冷気)によって快適性が低くなるが、壁式ではパネルにより暖気や冷気を防ぐことができるので天井式に比べて快適性が高くなっている。床式ではパネルと人体モデルが近くなるため、冷房でのPMVが低くなったが、パネル温度を上げるなどの方法によって快適性を高めることが可能だと考えられる。
4、総括
 放射冷暖房はどの方式においても快適性が高いということがわかった。天井式は人体の室内での位置によって快適感に差がでやすいと思われる。壁式は省エネルギー性、快適性ともに高い。床式は冷房時パネル温度を高く設定することで快適性、省エネルギー性が高まる可能性があると考えられる。
 放射冷暖房を実際に設置する際は、それぞれの方式の特徴や、建物の規模、壁の仕様、家具の配置などを考慮することが必要である。
【参考文献】
1) 武田仁、瀬沼央「天井放射冷暖房システムに関する研究」 日本建築学会技術報告集 第11号 2000年12月
2) 北脇典子「放射冷暖房の快適性についての研究」 平成15年度本学卒業論文 2003
3) 空気調和衛生工学会「オフィスビルの設備設計ガイド」 1997
4) 田中俊六ほか「最新建築環境工学」井上書院 1999

0 件のコメント:

コメントを投稿